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プラスの4度ってこんなに寒かったっけ? 真冬なら快適気温のはずだったのに今日は震え上がった。 お陰で土曜日なのに客足は遠のきまったりした時間が流れていた。 それでも閑古鳥が鳴かなかったのは、数少ないお客様がいつまでも滞在してくれたおかげと感謝しております。
ご主人を亡くして全身が白くなった黒ラブ/ソニアは10歳の今、病を患い奥さんは次の手術を受けさせるかどうか決断しかねているようだった。 その判断材料として私に意見を求めておられたが、私もまたどこまで自分の考えを話してよいのか躊躇していた。 「どんな手術ですか?」 「乳腺をすべて取り除く手術です」 「今、何歳ですか?」 「10歳です」 「う〜ん。微妙ですね。」と私は次の言葉を探していた。
そしたら奥さんは私の助言を促すように言葉を付け加えた。 「先生が仰るには肺に転移している可能性があるとのことです。」 「え?そうなんですか。何歳でしたっけ?」 「10歳。いや正確には10歳7ヶ月になります。」
その言葉を聞いて私の気持ちは吹っ切れた。 「手術はやめた方がいいと思います。 ただし、たとえソニアがどんな状態で余生を暮らそうとも医療に任せなかったことを後悔する自分がいるならば先生のアドバイスに従うべきでしょう。 でも、私ならそうはしません。 まもなくソニアは11歳。 手術が成功し予後がうまくいったとしても寿命は迫っています。 これからをどう過ごしたいのですか? 何歳まで生かしたいのですか?13?14?」
「え!そんなに?」 奥さんのその一言に私はホッとした。 Kさんは心の準備はできているのだ。 ただすべての生あるものがそこに至るまでのプロセスと、後に思い出しても楽しい時間を如何に共有できるかを模索しておられたのだろう。
「食欲もあるし、こうして自由に動き回れるし、のんびりしているように見えるのは10歳なりの落ちつきが出てきたのですよ。 逆に言えば病気の進行ものんびりということです。 もし何年か先に辛い症状が出てきたらその時こそ先生にお願いして、少しでも楽に生きて死ねるようにしてもらえばいいじゃないですか」
なんだかホッとした表情をされたのが印象的だった。
愛犬が死んだ後、少なくとも1年間は誰が何を言っても“とにかくどうしようもない時間”を我々は過ごさなければならず、それだけは仕方のないことで、事故死や急死などのショックと比較しても受容期間があるだけでありがたいことなのだ。
自分や家族つまり現在の人間には法的・人道的に許されない“介護と死の迎え方の選択”が我々犬の飼い主には与えられており、実はそのことが自らを見つめるきっかけとなる『愛犬からの最後の贈り物』となるのである。
いずれにせよ今日のソニアは全然元気な状態で、プラス4度を暖かく感じていたように思えた。
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