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朝5時に歯の痛みで目が覚めた。 口内を消毒して再び寝ようとしたが結局うとうとしただけで2時間が過ぎ、痛みはさらにひどくなっていた。
「11時半の予約が取れたからね。絶対行くんだよ。」 Kの迫力と歯の痛みで私に反論する余地はなく、10数年ぶりの歯医者通いとなった。
今時の歯医者さんは凄かった。 問診表にはいつからどこがどう痛むのか、治療は保険か自由診療を含めるのか、痛いところだけの治療かすべてをチェックするのか、過去の受診経過と結果はどうだったのか…。 昔なら問答無用で歯石の除去をする先生とモゴモゴ話をしながら相談していたことが事前に紙一枚に記入する仕組みになっているから良心的で安心なシステムだとは思うが、老眼で文字がよく見えない私は、10分くらいかけて読み、『すべて保険診療』に丸をつけ『どこまで治療するか』との欄にはその他の項目に『状況を見て』と書いた。
予約制だからすぐに呼ばれ、案内されるままに着席すると治療台には小型液晶テレビが備え付けられていて驚いた。 「やっぱり痛いんだ。だから気分を少しでも落ち着かせるような舞台装置を充実させてるんだ」 痛みに弱い私はかえって不安になった。
「歯のレントゲンを取らせていただいてよろしいでしょうか?」 丁寧な言葉遣いに緊張が走る。 「も、もちろんですとも!」 少しでも丁寧な扱いで痛みなく治療して欲しい私は、その場に相応しくないほどの高い声を出して従順なしもべとなっていた。
ターミネーターの映画に出てくるような機械が私の顔の周りをゆっくり回転していた。 「変死体で発見されても飛行機が墜落してぐちゃぐちゃになっても、これで歯形から私だと特定できる資料作りが今行われているんだ」 妙な緊張がやはり走っていた。
いよいよ診察と治療が始まった。 暗号のような「1はなんとか、3は○○、8はクラウン」というようなやり取りを先生と看護師さんが行う瞬間、私は小学校の頃の歯科検診を懐かしく思い出してしまった。
消毒の綿花が歯茎に刺激を与えたから、「いよいよだな」と覚悟を決めた私に先生は言い放った。 「はい、今日はこれで終わりです。炎症を抑える抗生物質と痛み止めそれにうがい薬を出しておきますね」
「うれしい」気持ちと「これでいいの?」との思いが複雑に交差した。
帰宅してポタージュスープを昼食代わりに飲み、処方された抗生物質と頓服を服用した。
以後、4時間おきに私の歯は痛み出し、残り少なくなった頓服の量では月曜日までもたないから「どうしようか?」とたじろいでいる。
「次の予約はいつがよろしいですか?」 その質問には「また連絡しますね」と答えてきた私であるが、さて、どうすればいいのだろう? 既に夜中の1時半を回っているから今薬を飲めば明日の朝6時くらいまでは安眠できそうなのだが・・・
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