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生後5ヶ月になるMダックスのきくちゃんが面白い。
怖いもの知らずでカフェの犬たちにちょっかいをかけるものだから、犬嫌いのわんこに近づいたときなど管理する私も冷や汗をかく場面もある。 それでも犬たちはきくちゃんがまだ幼いということが分かっているので、我慢したり逃げ出したり軽く威嚇する程度で耐えていてくれる。 きくちゃんに恐怖体験させることなく、社会化や礼儀をわきまえさせるにはうってつけの状況である。
そんな配慮で身を守られていることすら知らないきくちゃんは、ガーデンでも奔放に走り回って飼主のOさんを手こずらしているようだ。 「Oさん随分頑張って走り回ってるね」 「あれってきくちゃんと遊んでるつもりかな?」 先々週だったかカフェのお客さんが窓越しにガーデンの二人を見て話していた。 10分ほどしてカフェに戻ったOさんは 「やっと捕まえた」と息を荒げていたものだ。
今日のガーデンでも元気に走り回るきくちゃんにOさんはたじたじの様子。 どれほどの知能を持っているのか試したくて私も遊びに参加してみた。 犬と暮らすのに絶対必要な『マテ』を遊びの中で教えてみようとチャレンジしたのだが、驚くことに既にその訓練は始められていて、きくちゃんもおおむね理解していたのだった。 三度ほど訓練して、より強化しておいたが、ちゃんと教えられていることに脱帽した。 「誰が教えてるんですか?」と尋ねると 「娘はやらないから女房でしょう」とOさん。
Oさんが教えているのではないことは明らかだった。 何故なら、走り回るきくちゃん相手に「マテ!マテ!」と命令を聞くはずもない状況下で叫んでいたから。
マテの意味を教えるには遊びの延長が最適な場面である。 相手が自由に逃れられる状態ではなく、人がしゃがんだ姿勢で両手で大きな輪を描き、その中にワンちゃんがいるようにして「マテ」と声をかけ、まるで積み木遊びで積み木が倒れないように優しくマテの姿勢を保持させて、数秒でもできたら「よし!」と言って解放し大喜びするのがこの訓練の始まりで、これを繰り返しながら徐々にハードルを高くしていくのがコツである。 小さい頃から教えていると将来がとても楽になり、呼び戻しの訓練にも応用できるし、何より様々な場面で犬の命を守ることもできる。
Oさんは『命令すればいずれきくちゃんが言うことを聞くようになる』と勘違いしてガーデンで追い掛け回し、奥さんは自宅でまるで子育ての頃のようにじっくり言葉の意味を手取り足取り教えているのだろうと想像した。
我々日本人は生まれながらに日本語を理解していたわけではなく、何度も物と言葉の結びつきを提示されて覚えてきたはずである。 「だっこ、ちょうだい」 私の子供が抱っこをせがむときに発した言葉は今でも忘れることはできないし、生き物が言葉を覚えていく過程としてとてもよい教訓となっている。
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