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毎日が氷点下の冬が過ぎたというのに、プラス3度の初春のほうが寒く感じるのは何故だろう? ストーブの設定温度もついつい高めになってしまう。 椰子の木でも植えればガーデンは常夏の島のように白く輝いて見えるのに、実際カフェから出てみるとすぐに震え上がってしまう今日一日だった。
カフェを訪ねてくれる犬たちが初来店の頃から比べれば変化し、「ここは安全な社交場だから、礼節を守って楽しく過ごそう」と意識して振舞っているのに気づかされることがある。 初めて大学のキャンパスに立ったときに私もそんな風に感じたのを今でも覚えている。 中学や高校のように番長グループがいるわけでもなく、おせっかいな先生が目を光らせているわけでもない。 学校にいるのに自分自身で時間の過ごし方を決めることができるのが不思議でとても新鮮だった。 恐らくあの時に初めて自由というものを実感し、『この雰囲気は守り伝えていかなければならない』と思い、自らが変化していったように記憶している。 それが何事も吸収する若さであり経験を積み重ねるスタートでもあった。
転じてお泊まり犬のゴン太はというと、10歳になるシーズーだ。 若い犬たちがカフェでどんどん変化していくというのに、この爺さんだけはいたってマイペースである。 既に積み重ねられた経験と人生訓があるものだから、その範疇から逸脱するような変化とか文明だとか科学の進歩は一切受け入れない、というか反応しないように出来上がっている。
彼の辞書によると 1.『散歩』とは、自らの生活領域における侵入者のチェックであり、その形跡に対する上書きである。 2.『他犬』とは、スタートレックに見られるような宇宙の得体の知れぬ生物であり、秘かなチェックは必要であるが決して心許さず、又、争いごとを起こしたり巻き込まれることなきよう注意しなければならない存在。 3.『ゴン太おいで!』とは、決して油断できぬ言葉であり、相手の下心がはっきり見える瞬間である。その命令を無視することこそ自らの存在と威厳を保つ要素となる。 4.『食事』とは、これぞ飼主を自らが操る儀式と捉え、美味しいものを出されたときには一生懸命に食べ、ドライフードだけの時には渋々食べよ。変化は必ず訪れる。 5.『権利』とは、自らの愛らしさを最大限に活用し、相手に隙ができた時にこそ容赦なくとことん突っ込んで既得のものにする知恵。
私が酔い潰れてなければこの倍以上列挙できる自信があるが、今夜のところはこの辺で勘弁してやろう。
ところで、夏でもズボン下を履いてる年配者が多いが、プラス3度になった春を寒く感じる私もゴン太の域に近づき、自分なりの辞書を持っているのかも知れない。
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