From the North Country

水と犬に思う 2005年07月06日(水)

  「澄み切った湖ですね」
朝のガーデンを眺めたKが感動したように言った。
見ると、白い砂浜に沖縄を思わせるような透明な水辺が誕生していた。
ガーデンの水はけが悪いのはこれまでもご案内の通りだが、当初のような泥沼ではなく清流の佇(たたず)みのような美しさを見せてくれていることを今は喜びとしたい。

だが、そんな奇麗言に溺れることなく私は排水作業を朝から1時間をかけて行った。
その作業の中で、人が手をかけると水が濁る光景を眺めながら、ふと、犬の訓練に当てはめて自分を責めかけてしまった私は思わず頭を振った。

確かに水は眺めていると美しく、手をかければ濁ってしまうかもしれない。
けれど、犬を清流のように考えてしまうと私達の生活は濁流に飲み込まれてしまうに違いないだろう。
ここはやはり治水事業が必要な分野であるのだ。

水という自然の流れを上辺だけで愛する人は、去勢や避妊それにしつけやマナーに消極的で、そのくせ様々な犬に関する問題を抱えて暮らしておられる。
逆に犬に対してきちんとした“治水事業”を行うべきだと考えている人々は、暮らしやすい犬たちがいるだけではなく、ダムや山林における治水事業に反対している傾向がある、と書いたら批判と喝采を浴びるだろうか。

水は生命の根源であり、法則や摂理に素直に反応しているのに対し、犬は人がどう考えようとも彼らなりの本能があり、学習の結果による行動を起こす生命体であることを認識し、だからこそ理論ではなく魂と魂のぶつかり合いが優位性を示すことを知っておかねばならないと思う。

今夜もスポーツクラブでヨガをやってきた挙句、その反動ともいえる焼酎の一気飲みの後にこの欄を書いている私の意思がうまく伝わっているのだろうかと心配になってしまうし、自分の意志がどこにあるのかすら分からなくなってしまう。
こんな日は早く寝た方がよい。
 

認知されつつあるカフェ 2005年07月05日(火)

  天地神明に誓って昨夜のこの欄をサボったのではないことを申し上げる。
2時間もかけて確かに私はパソコンに向かい書き上げた。

昨夜はカフェの閉店後、久しぶりにスポーツクラブに通い心地よい汗を流した。
帰宅してからの焼酎が旨く、キーボードを叩く私の指は軽快そのものだった。
書き上げた原稿を読み返し、満足してアップしようとしたはずなのに、酔った私の指は×(閉じる)ボタンをクリックしてしまったのだ。
夜中の私の吠え声に驚いたKだったが、事情を知ると妙に覚めた声で応答したことが私には不思議だったが結果的に私を落ち着かせてくれた。

昨夜のテーマは昨年大阪に転居した黒シバの蜜柑が一時帰省して、その仲間達が集ってくれたことに関しての話だったけれどその話を今夜振り返ることは止めよう。

さて、今日はいい時期に雨の一日となってくれた。
カフェを経営していて『いい雨』などあるはずもないのだが、先月25日以来の雨は大地には必要であり、生きとし生けるものとして感じる豊かな潤いがあった。

「わぁ、こんな日に来てくれたんですか!」
黒ラブのレオ君が皮切りであったが、毎日誰か彼かがやってきてくれるカフェは雨の日はそれなりにじっくり話し込めてまた面白いものだ。
千歳から来られたFさんは小樽のペンションで一泊される前にカフェを訪ねてくれ、「あんなに晴天が続いていたのに、なんで今日から雨なんでしょうね」とボヤいておられたが、ゆっくり食事をしていただくうちに雨なりの小樽の楽しみを考えておられたと思う。

先日の土日に洞爺湖でワンコ達を泳がせてきた方からは、「穴場発見!」の情報を貰った。
スナップ写真を見ながら、まるでプライベートビーチでくつろぐ贅沢な時間を過ごした様子を窺い知ることができ、カフェの情報箱をまたひとつ埋めることができた。

ドッグカフェナガサキは1年半の月日を経て、愛犬家の皆様に定着しつつあると感じている。
 

さあ、夏に入ったぞ 2005年07月03日(日)

  先日の予想通り午前中から2時頃までのカフェは小型犬の独壇場となっていた。
天候にも恵まれ、初めて来店される方や久しぶりに訪ねてくださる方が多く、そのほとんどが小型犬のオーナーであった。
中型ハスキーのチェス君と同じくミックスの緋梅(ひめ)ちゃんが妙に大きく見えるし、小型の常連犬もいつもと勝手が違う表情を見せており、戸惑っていたのは彼ら自身だったのだろうと思った。

様々な犬との出会いは緊張もするだろうが、良い刺激になり、とかく内輪意識を持ちがちな犬たちにとって気持ちの幅を広げる意味において良かったと思う。

一方、初めて訪ねて来てくれた犬たちもとてもいい性格でカフェを楽しんでくれていた。
ただ、ショーや繁殖に用いるのでもないのに去勢していないオス犬が多く、彼らは内から込み上げる本能に基づいてマーキングやマウントそれにストーキングを繰り返し、飼主から叱られたり一時捕獲されなければならないのが気の毒でもあった。
「家庭犬として暮らしたいならまずは去勢を!」と悶々とする彼らになり代わってお願いしたい。

ところで、朝から気温も高くなっていたので私はプールを準備し、ダックスクラスの犬が楽しめるように水を張っておいた。
だが意外なことに水に対して消極的なわんちゃんがほとんどであった。
実は、室内家庭犬はその生育環境から“きれい好き”なワンちゃんが多く、雨上がりに散歩していても水溜りを避ける傾向があるのだ。
そのような犬たちと飼主にプール遊びを決断させるには今日の気温は低すぎたかもしれない。

しかし、2時を過ぎて続々とやってきた大型犬はそんなチマチマしたことは考えもせず、一気にプールで水浴びをしてはガーデンを走り回り、人前で全身をブルブルして水しぶきを撒き散らして何とも豪快であった。
支笏湖や洞爺湖でさっきまで泳いでた犬である。
少し大きめの水溜りに足を踏み入れた程度にしか感じていないようだ。

北海道の爽やかな夏がいよいよスタートした。
 

さて今年の7月は? 2005年07月01日(金)

  7月のスタートは長袖から始まった。いいぞ、いいぞ!
日照時間はあるし先日は大雨も降ったから農家の被害も少ないはずだ。
クーラーや扇風機の家電販売店は昨年大儲けしたはずだから、ちょっとは辛抱できるだろう。何しろ釧路で昨年クーラーが6台も売れたのだし…
涼しくても天気はいいからアウトドアだって充分楽しめ、何より虫が少なくてすむ。

明日からの週末を洞爺湖でカヌーをして過ごすYさんは、羨ましいことにカヌーイストでエッセイでも有名な野田知佑さんと明後日の早朝、中島まで漕ぎ出すそうだ。

先週東川町のペンションに宿泊して、南富良野近くの湖で楽しい週末を過ごしたピレニアン・ゴールデン・Mダックス・パグのメンバーの一部は今週末もニセコのペンションに出かけると聞いた。
この時代、犬と暮らす中年世代がどうやら跳んでるようだ。

思えば昨年、夏場になると大型犬の常連さんがカフェから姿を消し、小型犬の来店が増加する傾向にあった。
カフェとしては小型犬に対するサービスを考えた方がいいのかもしれない。

「ようし、明日から今月一杯小型犬の入店料を無料サービスするぞ!」と短絡的に思いつき、痛い膝を伸ばしてパソコンの前から立ち上がって、Kにこのアイデアを持ちかけたら「この酔っ払い!腹にセルライトがタマっとるぞ!」と即座に却下されてしまった。

確かにその通り、アイデアは酔ってる時や遊んでる時に膨らませた方が面白いが、決定はしらふの時に毅然とした態度で通達する方が説得力がある。

小型犬専用プールもいいし、フォトサービスなんかいいかも…今夜の酔いはなかなか収まりそうも無い。
 

誠に私的な・・・ 2005年06月18日(土)

  水曜夜はサッカー中継の観戦で4時間弱の睡眠。
明けた定休日の木曜は朝9時からS治療院で膝と腰の治療のため悲鳴を上げるほど大いに痛めつけられ、終わるとそのままジャックラッセルのケイトの父さんの理容室に行った。
プロの癒しサービスを受けて頭はスッキリし帰宅したのが昼頃。
Kと一緒に長沼までドライブして、若者が始めたばかりで応援したくなるようなラーメン屋で醤油ラーメンをすすり、採れ立て野菜の直販所で野菜を仕入れて戻ってきた。
普通ならその後のんびりした夕刻と夜を過ごすのだが、この日は違った。
Kが揃えてくれたスポーツウェアを携え、とうとうスポーツクラブに出っ腹を少しでも引っ込める修行に出ることになったのだ。

恥ずかしくてたまらない私をKがカバーとフォローと励ましで支えてくれた。
初心者としての説明を受け、施設を見て回り、膝が悪いことも伝えて、「腹を引っ込めたい!」という目的も伝えた。

“ジョウバなんたら”という馬の鞍に跨るような機械が最初のチャレンジで、その後“お腹スッキリ”というプログラム、続いてヨガのレッスンを受け私は2時間半動き回ったのである。
エアロが得意で大好きなKも黙々と私に付き合ってくれたのだが、皮肉なことに先にギブアップしたのがKで、腹をくくった私はおじさんパワーを発揮して最後まで頑張った。
帰宅後のビールと餃子ががとても美味しく、私はそのまま深夜のサッカーコンフェデレーションカップ中継を観戦し、前夜に続いて夜中3時過ぎに就寝した。

それがいけなかった。

二日間の寝不足と前夜のスポーツクラブでの頑張りは、翌日さっそく形となって表れた。
頭はぼんやり、おまけに咳をすると悲鳴を上げたくなるような下腹部の痛みがあって、昨日は生きているのが精一杯な一日だった。

そしてたくさんの方にカフェをご利用頂いた今日を終え今夜を迎えているのだが、下腹部の痛みはしっかり残り、再びサッカーの試合が今夜も中継されてしまっているのである。

何を言いたいかと言うと、私は明日も寝不足で痛みも残るから使いものにならない可能性があるということで、それが数日続いているということは、今後もしばらく続く可能性があり、ひょっとしたらそれこそがカフェ(私)の日常であるかも知れないということである。

“寝不足・痛み・飲み過ぎ”による私の明日の失敗をスタッフがカバーしてくれ、私を癒してくれる犬たちが集まるのを祈るばかりである。
 

カフェのサッカーチーム 2005年06月15日(水)

  爽やかな北海道の初夏が続いている。
オゾン層破壊で紫外線がたっぷり含まれた強い陽射しに、皮膚はピリピリ痛いのだが、そよぐ風はひんやり感をもたらしてその調和が心地よい。
ヘアトニックもリキッドも男の化粧品もまともに使ったことは無いが、このところ皮膚に痛みを感じるようになったので今年の夏はUVカットのクリームでも見つけて塗ろうか。
そんなことを考えながら日付が変わったガーデンに今日Kが買ってくれた甚平姿で出てみると、寒い寒い!。どうやら今年の北海道はいいようですぞ。

さて、サッカー日本ユース代表のベナン戦がキックオフとなった。
その中継を見ながらカフェにやってくる犬たちでサッカーチームを作るとしたらどうなるだろうと考えてみた。

ゴールキーパーはMダックスのプー助かゆきねが適任だろう。
身体が小さいのが難点だが、気分が乗った時の果敢な責めと、その俊敏な動きで強烈なシュートを身体を張って受け止めるし、何よりボールをキャッチした時『この野郎!この野郎!』とばかりに振り回しながら味方の士気を高めてくれるのが良い。

フォワードは黒シバのあずきとジャックラッセルのウランそれにコーギーの風子がゴールへの執念が強く得点能力も高いだろうが、相手の激しいタックルを受けた時に『ガウ!ガウ!』と抗議をし過ぎてイエローカードを受ける心配がある。

司令塔のボランチにはゴールデンのベルナが最適だ。
ゲーム作りが得意で中盤をうまくコントロールし、抜群のスルーパスを通してくれるはずだ。ゴールの瞬間には背中を擦り擦りしながら喜びを表すだろう。

ディフェンスのバックにはレオンベルガーのジェニー、ラブのジャックとマックスをスタメンで起用しよう。
ジェニーの迫力と高いポイントからのヘディングでピンチをチャンスに変え、バックから一気に走りこんだジャックとマックスがフォワード顔負けの豪快なシュートを放ってくれる可能性が高い。

こんなことを書いていたらベナンの選手にうまくかわされてゴールを奪われてしまった。
集中して応援しろ!ということらしい。

監督にはパグのブルでもいいが短気すぎるところが危ういから、面倒見の良い親分肌のゴールデンのトムにしよう。
サブのメンバーには同じくゴールデンのノエルやラブのハルも含まれるがまだ若すぎるため真剣勝負をエンターテイメントに変える心配がある。

さあ、後半戦が始まった。
先ずは同点そして逆転を祈って応援しよう。
 

長男?はつらいよ 2005年06月14日(火)

  「キャイーーン、キャイーーン、キャイーーン」
切り裂くような甲高い叫びが長く尾を引きながらカフェに響いていた。
10秒ほども続いたように長く感じられ、私はチワワのチビを抱きかかえた。

小柄ながら42キロあるレオンベルガーのジェニーと一緒に暮らすチワワのチビちゃんは大柄ながら3.2キロしかない。
しかし、その環境で姉弟として育っているからチビは勇猛果敢で、相手がいない暇な時はジェニーと壮絶な遊びを展開する。
もちろん、ジェニーは大型犬であるという理由だけで
「手加減しなさい!・あんたが悪い・ちっちゃいんだよ!」とまるで人間の長男のように育てられてきているから、日頃からふたりの戦いはチビの方が優勢に進められている。

様々なハンディを背負ってチビの攻撃に対抗せざるを得ないジェニーは、それでも愛着と細やかな配慮示ししながら日々健闘している。
そのジレンマによる鬱積した気持ちを自らの叫び声で解消しようとすることもあるが、まずいことに今日の叫び声はチビに上げさせてしまったのだ。

ジェニーは昨日から下痢が続き、治療のため食事も抜かれることがあってストレスも溜まっていたのだろう。
遊びの最中、つい油断して振り下ろした手がチビに当たってしまったようだ。
泣き叫ぶチビ。
チビを抱きながら私は自分の子供が小さかった頃を思い出した。

長男は口数が少ない気の優しい子だったが、娘は行動的なしっかり者で、ある日二人の間で揉め事があり、ついに娘が大声を上げて泣き出してしまった。
(言い分もあっただろうが)おどおどする長男を私は一喝し、娘にどうした?と尋ねると娘はピタリと泣くのを止め理路整然と「だってねえ、お兄ちゃんがねえ」と延々と事のいきさつと自分の正当性を語りだし、終わるや否や再び大声で泣き始めたのである。
“女は凄い(怖い)!”との思いがその瞬間脳裏をかすめたのを記憶している。

長男が一喝されたように、今日のジェニー(大柄だけど女の子)もまた大いに叱られた。
きつく叱りながら、私はジェニーがとても愛しく感じられていた。
「こうやって大柄なジェニーはさらに優しく配慮する犬に育ち、可愛いチビは世渡りがうまい犬に育つのだろうな」と思うと、本当に愛しい思いだった。

最近のワイドショーでは兄弟喧嘩が絶えない世界もあるようだが、4人姉兄の末っ子だった私には、姉兄に感謝しなければならない思いが最近分かって来た。

チビの痛みはすぐに治まり、ジェニーが叱られ自分が大事にされたことに満足したように駆け回っていた。
 

今日の愛犬相談 2005年06月13日(月)

  今日のカフェはいたってのんびり。
寂しい話だが訪れる方も少なく、「こんな日に愛犬相談で来られる方はお得だね」と話していたら幸運な方がやって来られた。

「初めてなんですけど」
「ええ、どうぞ」
「それが…吠え立てるんです」
「犬種は?」
「ラブです」
ラブならお手の物なのでカフェで待っていると、入るなり私達に吠え掛かり、他犬にも勇ましかった。
様子を見ているとどうやら闘争的攻撃性があるわけではなく、不安から来る空威張りのようだ。

猫の場合は不安となる対象物が近づくと、気付かれぬよう息を潜めて相手が通り過ぎるのをじっと待つのだが、ガラガラヘビや犬の場合は音や声を出して自分の存在をアピールし「だから近づくな!」と騒いでしまう。

このラブちゃんは私が制御することで猫のように大人しくなり、ガーデンを走る犬たちに不安と興味を示し、飼主共々なんだかカルチャーショックを受けているようだった。

「どこでカフェをお知りになったんですか?」
「平岡公園で黒ラブを散歩させていた初老の夫妻が教えてくれました」
そんな話をしていたら、江別市から通ってくださるKさんが黒ラブのレオとやって来られた。
「あっ!この方です!」
偶然の出会いがあったようだ。

午後に入ると犬無しのご夫妻が来店された。
「ジャックラッセルを飼ってるんですが、とんでもない奴で…」
「ええ、ええ、よーく分かります。活発というか落ち着きが無く、知的というかズル賢く、見ていて飽きないというより気が休まらない…」などと調子に乗って私が喋ったことが図星だったものだから、飼主はその大変さをいろいろ話され、その後私は慌ててジャックラッセルのいい面を話してフォローを行っていた。
「家に戻って犬を連れてきてもいいですか?」
「もちろんです!で、どちらから?」
「千歳です!」
「えっ!」

閉店少し前にカフェにやってきたジャックラッセルのムギちゃんは生後9ヶ月のやんちゃな世代でありながら、これまでに見た同世代のJラッセルの中でも、とりわけ暮らしやすそうないい子であったのに驚かされた。

犬種の特性に対する愛好家の想いを門外漢がとやかく言うのは筋違いであることは重々承知だが、この飼主は「前の犬があまりにも大人しかったから、活動的と聞いたJラッセルを選んだ」とおっしゃり、その落差の大きさに戸惑っておられるのだろう。
犬として必要な社会経験や、魔法にも似た接し方のアドバイスなどを行ったが、「来週また来ます」と言われ、喜んでいただけたと感じた。

そして数年もすればきっとJラッセルファンになられていることだろうと思った。
 

フレンチブルの武蔵君 2005年06月11日(土)

  蒸し暑い一日だった。
カフェではエアコンを今年になって初めて稼動させたが、深夜になった今も上半身裸でパソコンに向かう蒸し様だ。

休みの日には頻繁にカフェを訪ねてくれるフレンチブルの武蔵君だが、今朝はお相手に恵まれすぎたのか気合が入ってしまった。
そのお相手とは盲導犬のパピーウォーキング中の元気なラブ君2頭で、体力の差は歴然としていた。
にもかかわらず武蔵君は果敢に後ろ足で立ち上がり、前足というより正に両手を駆使して対等に渡り合おうと頑張って時に相手をひるませる局面も見られていたのだが、冷静な飼主はレフェリーストップをかけた。

「やってやったぜ!」
1ラウンドを終えて肩で風を切るようにカフェに戻ってきた武蔵君だったが、その息遣いは荒くブーブーと音がしていた。
「この間、平岡公園を散歩していたら仔ブタと間違えられました。」
飼主は笑いながらそう話してくれたが、あと2〜3度温度が高ければ呼吸困難に陥りそうな気配である。

「去年の夏の暑さで札幌で5頭ほどのフレンチブルが亡くなったそうですよ。だから今年は我が家もエアコンをつけました。」
そんな話を横目に武蔵君は第2ラウンドに突入し、再びレフェリーストップで戻されたものの、その闘志は衰えることは無くただ呼吸音だけが私達を心配させていた。

「エアコンの次は高濃度酸素室が必要ですね」
その後にやってきた犬たちは走り回った後、水を浴びるように飲むことで冷却していたが、鼻ペシャのわんこ達にとっては暑さと興奮による呼吸調整は死活問題であることを改めて知らされた。

第3ラウンドにはとっておきの秘策も考えていたのかもしれないが、果たせぬまま飼主と共に引き上げて行く武蔵君の後ろ姿からは「今日のところはこのへんにしといたろか!」という勇ましさが感じられクスッと笑えた。
 

一つの区切り 2005年06月10日(金)

  ほぼ半年の時間を経て、昨日我が家の愛犬スーを納骨してきた。
盲導犬協会にある『霊犬安眠』と彫られた慰霊碑の前に到着した時には、老犬担当のTさんが慰霊のための準備をしてくれていた。

「スーの写真持っていく?」
「うん。でも気に入ったのある?」
「無いよねぇ。一面は捉えてるんだけど、これって言うのが無いよねぇ」
実はお気に入りのショットがあるのだが、うしろ姿だから儀式の場には相応しくなく、結局仔犬の頃の写真とカフェの常連さんが撮ってくれた額入りの写真を持参した。
Tさんが準備してくれた慰霊碑にはリンゴやおやつそれに花が飾られていたが、持参したスーの写真はしっかりマッチしていた。

毎年8月の慰霊祭では私自身、100頭以上の盲導犬や繁殖犬を納骨・追悼してきて、慰霊碑の後ろにある納骨場所には懐かしい犬たちの骨が山のようになっていた。
「スーは控えめだから」
Kの言葉に私は隅っこを選んで骨箱から骨を撒いた。
両手を合わせたKと私はそれぞれの想いを送りスーの冥福を祈った。

一つの区切りがついたのだと思う。
一日経って私は、「うしろ姿のスーの写真を拡大して額縁に収めよう」と決め、Kは「慰霊碑の周りを綺麗にして花を植えようかな」とつぶやいた。

夜、9時前にカフェの常連の方から電話があり
「これからガーデンでちょっと遊ばせてもいいですか?」としばらくしてやってきた。
爽やかな夜風に吹かれながら、ニセアカシアの木を見渡すと、枯れ木のようだった枝に新緑の若葉が照らし出され新たな息吹を鮮やかに見せてくれた。
 


- Web Diary ver 1.26 -