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ちょっとした油断から大きな失敗をしてしまった。 おととい一泊の予定でお泊りだったPちゃんに対してだ。
その日のお泊りはPちゃんだけだった。 カフェには何度もおいでいただいているが、お泊りは初めてのこと。 家族と別れたあと他の多くのワンちゃんたちがそうであるように、Pちゃんもガーデンのフェンス越しに家族を捜し求めて、不安と寂しさを示していた。
「普段は食欲があるのですが、こんな時は食べないかもしれません。でも一泊だけだから気にしないで下さい。」 飼主はそう言われながらも、いつもよりご馳走だというPちゃんの食事を託されていった。 しかしと言うか案の定と言うか、Pちゃんは夕食には一切見向きもせず敷物の上で寂しそうに静かに寝そべっていた。
定休日の前夜ということもあり私は夜更かしをして3時頃床についた。 いつもなら初めてのお泊り犬の初日は、寝室でリードに繋ぐかケージに入れるのだが、他にわんこもいないし落ち込んでおとなしくしていたPちゃんを見て、私はベッドの下にそのままPちゃんと敷物を移動し蒲団に潜り込んだ。 居間との間の引き戸が5センチほど開いていて、給湯コントローラーのデジタル表示がやけに眩しく感じたのが気になったが私はすぐに眠りに落ちた。
ベッドの上をモソモソと動く気配で一度目が覚めたものの、「やっぱり寂しくてベッドに上ってきたな」とまた眠った。
定休日を木曜にしたのは間違いだったといつも後悔する。 ごみ収集日で、しかも木曜は一番に収集車が回ってくるのでKは7時に起きてごみを集め始めた。 その気配で起きた私も居間でごみをまとめようとしたが、何か雑然としている。 私の座布団の上を見ると小さな茶色い塊。 「しまった!ウンチ?!」 だが、ウンチならまだ良かったことにすぐ気付かされた。
ちゃぶ台の上にはたくさんの足跡。 そこに積み重ねた書類の下に置いてあったサイパンのお土産だったマカダミアナッツの入ったチョコレートがすっかり無くなっていた。 確か6〜8個残っていたはずだった。 満腹になって座布団に食べ残したのか、それとも食べてる最中にKの気配を感じたPちゃんが慌てて私のベッドに駈け戻ったのかは分からないが、とにかく食べてしまっていたのだ。
チョコレート、特にブラックチョコレートは犬にとって毒物であると聞いていたので、どうしたものかと考えた。 ボールや靴下等なら過酸化水素水を飲ませて吐かせることもできるが、チョコレートとなると妙な反応をされても困る。 ラブやゴールデンクラスなら量的にも心配なかったかもしれないけれど、小型犬ではそうも言ってられない。 結局、開院前のS先生のところへ連れて行き吐かせていただいたが、その量たるや「病院に連れてきて良かった」と思わせるに充分なものだった。
お昼前に飼主の方が引き取りに来られ、事情を説明して病院で頂いたお薬を渡した。 飼主と子供さんたちはニコニコしておられたが、私は謝り「何か様子が変わったところがあればカフェにも電話を下さい」と申し添えた。
小型犬を甘く見、『犬の振り』に騙された私の油断だったと反省していた時、 「えぇ!なんで犬がそんなことするの?信じられない!」とKは相変わらずであったのが嬉しかった。
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