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意外と知られていないことだが、盲導犬を一人前にするための訓練時間は、国際基準で80時間以上と定められている。個々の判断にもよろうが、「そんなに早く訓練できるの?」との印象を持たれるだろう。 日本では盲導犬を何か特別な犬として扱う象徴のように『長く厳しい訓練』という曖昧な表現が一人歩きしてしまっているから、ちょっと肩透かしを食らった気分になるようだ。
盲導犬の候補犬はご存知のように1年間パピーウォーカーの下で育てられるが、この時盲導犬の訓練を行うことはあまりなく、盲導犬となるために必要な社会性と経験それに人間に対する信頼感を身に付けるのが主な目的だ。
適性検査に合格した後、訓練に入るわけだが、この80時間以上の訓練を行うために、国際的に見ても4ヶ月から12ヶ月という風に、学校によってその期間が異なっているのは特筆すべきことである。 その理由のひとつに、専門職と『何でも屋』の違いがあげられる。つまり、訓練士として職務に専念できる態勢が取られている学校と、犬の給餌や管理などケネルスタッフを兼務しさらに募金や広報活動も行う何でも屋では、訓練できる時間が当然変わってくるのだ。
イギリス盲導犬協会の繁殖システムを確立した今は亡きフリーマン氏の家に泊めてもらった時、私の仕事が多岐にわたっていることを話したら、彼の娘たちが 「Jack!」と叫んだ。ジャック、何でも屋である。皮肉なことにイギリスのことわざにJack of all trades and master of none.というのがある。多芸は無芸という意味で当時私は少なからず恥ずかしさを覚えたものだ。
しかし、数年後、かの国の訓練士たちと話をした際「私たちは盲導犬を訓練することしか学んでおらず、あなたのようにトータルで盲導犬の育成を考えることができないのが恥ずかしい」と言われ、北海道で専門職化を進めていた私は目から鱗が落ちる思いだった。(つづく)
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