|
パピ-ウォーカー(PW)のY家に飼育委託され順調に育っていたアモだったが、最初の講習会で協会にやってきたとき「この子ちょっと変。車内での様子が…」とYさんは言った。 試しに車に乗ってみると、アモは急に落ち着かなくなりハーハーと息を荒げた。 「車酔いをしているわけじゃないので、徐々に慣らしていきましょう」と私はアドバイスしたが、その後も劇的な変化はなく『アモは盲導犬のテストで落ちる』とベテランPWのY家では踏んでいたようだ。
「アモ君ね、車に喜んで乗るのに走り始めたらハーハーハーハーと息が荒くなるんですよ」 案の定盲導犬の適性検査で落ちて、瀬棚のN先生に引き取られたアモは相変わらず車内での態度に問題があったようだ。
つまりは生後3か月において示す生得的な資質であり、アモ自身がどうすることもできない“個性”というべき問題でもあった。
だからといって我が家にやってきた以上『仕方ないね』と受け入れるべきことではなかった。 どこかへ出かけるたびに車内でハーハーハーハーされてはこの先やってられないじゃないですか。
生まれながらの稟性と闘う厳しい試練があった。 『ダメだろうな。』内心私はそう思った。 アモだって『自分ではどうしようもない気持ちをわかってよ』と訴えるよな、と思った。
それでも私たちは2泊3日600キロの旅に出た。
ニセコまでの車中、私は怒鳴りっぱなしだった。 ニセコでは楽しい一昼夜を過ごした。 翌日、函館まで車を走らせ、同じく車中では叱ったりなだめたりの時間が過ぎていたと思う。 函館ではあちこち散策し、特別にアモと一緒に泊めてもらったホテルではアモの振る舞いに感謝されることもあった。
そんなこんながどう通じたのかは分からないが、アモのハーハーは一気に減少し、帰路に立ち寄った住み慣れたN先生の自宅を離れる時も我先にと車に飛び乗った。 さすがに日本海を見た時には血が騒いだようだったが…
以後、車内でのハーハーは無くなり、海が見える道路を走るとき私とKはアモの控えめな昂ぶりを楽しむようになっている。
生得的と思われるようなアモの“車問題”を解決するのに3か月を要したが、逆に『このようなことも暮らし方で解決できるのだ』と、わんこの受容能力の深さを知ることができた。
意を良くした私は以後アモに様々な言葉を教え、アモが自発的に学習する、つまりはわんこの能力を知ることを再確認できたのである。
与えるべきものを与え、共に暮らす響きを感じあえる時、種が違う人と犬が共鳴する最終章があることを次回から書いてみようと思う。
|
|
|