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「ちゃんとせぇんかい!痛いべ!」 「おお、ありがとな、助かったよ。」 「おめぇ、何やってんだ!」
どちらかと言えば文句の方が多い状況からスタートし、徐々に一心同体に向けて絆を深めていくのが盲導犬とユーザーの関係である。 表現の違いはあろうが、我々は仕事や人間・家族関係での結びつきが深まるプロセスとしてそんな経験をする。
2か月ほど前に4頭目となる盲導犬を持った“秋田の力”から今夜、力ない電話があった。 「先週な、1メートルを超える深さの側溝に落ちてしまってよ。人間って面白いもんだな。痛いのに俺、外れた眼鏡を水の中で探してたんだよな。こんな経験初めてだ。薬局に行って見てもらったら耳が何か所も切れて首の回りまで血だらけだから病院さ行けって。日曜だったから職場の看護師に手当てしてもらった。」
力はショックを受けていたようだ。 これまでどの盲導犬も最初からうまく歩けたわけではなかったが、小さなミスに対して『てめぇ!ちゃんとせい!おお、そうだ。』と喝と感謝を入れることで安全に歩ける喜びを手にしてきた。
「だけどよ、最近の盲導犬は昔と違ってお利口なんだ。なんも悪さはしないし、言われたように仕事をする。だどもその分俺たちが状況判断して命令しなきゃならねぇ。それじゃ杖と同じでねぇか。昔の盲導犬はきかなかったけど、いざという時には『私/俺に任せろ』っていう気概があった。今の盲導犬は草食系・癒し系なんだよな。」
長年盲導犬を使用してきた男が語る、時代を反映した貴重な証言である。
もし私が盲導犬訓練士を今もやっていたら、ある意味同じような犬を目指していただろうし、後輩はその一部を実現させてくれたのだろうと思う。
多様な人々がいる。 多様な盲導犬を訓練し、見事にマッチングさせることで幸せになれる人々がいる。 頑張ってください。
力には私なりのアドバイスをしておいた。 「丁寧にな。小さなミスを訴え、小さな当たり前を褒めよ。おめぇにとっては4頭目でも、今の犬は2か月前に初めて盲導犬になったばかりなんだぞ」
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