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ラッセル君はカフェを始める1年前の2002年秋頃にレッスンを依頼された現在8歳のゴールデンである。 オープンしてからは主にお泊りでのお付き合いが多かった。 「てんかんの発作を起こしたんです。初めてのことだったのでビックリしました」と数週間前飼い主のTさんがカフェにやってきた。
てんかんの確定診断は難しいので「もし、てんかんなら薬が合うまでTさんが発作に慣れて冷静に対応しなけりゃね。ラッセルの個性だと思ってうまく付き合うしかないよ。」 と、発作時の対処法などをアドバイスした。 そして「脳腫瘍じゃなけりゃいいのにね」とポツリと漏らした。
今日Tさんとラッセルがカフェを訪ねてくれた。 「脳腫瘍(髄膜腫)でした。余命2〜3ヶ月の宣告を受けました。」 告知を受けたのがいつだったか聞くのは忘れたけど、Tさんは落ちつきをもって気丈に報告してくれた。 その姿にある種の覚悟を感じた私も「なあも大丈夫だ。こうなったら余計な治療さえしなければ、こんなに元気なんだからそこそこ普通に生活できる。その時間を大事にするんだよ」と答えた。
既に家族で充分に話し合ったのだろう「ええ、そのつもりです」とTさんはしっかり頷いた。 緊張が解けたTさんは続けた。「大学病院で大勢の学生を前に、先生は画像を見ながら『これが腫瘍でこの部位と大きさなら2〜3ヶ月』とあっさり言うんですよ。だから私もふんふんって聞いてたんですけど、最後に会計を済ませる段になって身体中が震え始めて支払いができないほどでした」 そして「治療からは離れますが、この子の負担にならない範囲で薬膳だとか漢方なんかできるだけのことをしようと思っています」と決意を述べられた。
痙攣など発作の繰り返し、ふらつき、ひょっとしたら視覚障害や異常行動が今後現れるかもしれない。 どこかの段階で安楽死を視野に入れることにもなるだろう。 そこまでの覚悟と準備を考慮に入れたうえで、これからを精一杯悔いなくある意味楽しく充実しながら過ごして欲しい。 事故無く生きてきた愛犬とその飼い主が必ずや迎えるであろう最後のステージの幕が上がったのだ。
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