|
今回の定休日は洞爺湖でキャンプを、と計画していたが前日になって秋田犬ももちゃんのお泊りが舞い込んできた。 普通ならショッキンぐ〜なタイミンぐ〜だったが実はこれ、渡りに船でもあったのだ。
天気予報が優れず『大雨になったらアモは勝手に泳がせて、我々はテントで読書三昧。』とか 『待てよ、アモが一人で泳ぐはずはないから結局外で付き合うことになるぞ』などの状況から“キャンプに行かない理由”を模索し始めていた私だったから、まさに大義名分が降って湧いたわけである。
案の定木曜日の夕方から夜半にかけて激しい降雨があり、1泊2日なら敢えて行く必要はなかったと思えた。
で、その木曜日。 定休日を察知したアモの主張を受け入れ、お泊り犬のももちゃんを連れて曇り空のもと私とKは原始林へ出かけた。 これがまた実に心地よく二人とも薄手の長袖を羽織って丁度良い気温だった。 オオウバユリがあちこちでたくさんの花を咲かせ、大沢池のとある場所ではアカゲラがサミットでも開いているのかと思わせるような集団を見せてくれた。 春先には好奇心が強く私の口笛による物真似に即座に反応して近づいて鳴き返したウグイスも、この時期は泰然としてホーホケキョの後に新たに覚えたケッキョ・ケッキョ・ケッキョを身じろぎもせず唱えていた。
入林前にコンビニで2種類買ったKの好物ヴァン・ホーテンのチョコレートのひとつが私のリュックから見当たらなくなった。 「きっとお茶を出した時に落としたんだ」 「いや、僕の長袖を出した時かも」 2時間ほど歩いてから私たちは予定のコースを変更し、別ルートからお茶と長袖を出したコースを経由して駐車場へ戻った。
「残念だったね。あっちのヴァン・ホーテンも美味しかっただろうにね」 まだ未練が残るKの言葉を聞きながら私が車の助手席を探すと、そこにちゃんと“あっちのヴァン・ホーテン”があった。 私が飲み物と一緒にコンビニ袋を渡した時にKが出したのだろう。
「ごめんね。食べてみる?」とK。 「夏の車内に2時間半だよ、解けてるに決まってるじゃん」と私。 「何言ってんの、絶対解けてません。」 「そんなバカな」 「私が何年チョコレートマニアやってると思うの、絶対解けてません」 そのチョコレートは本当に解けてないどころかカリカリしていた。
そんな油断が重なった瞬間、秋田犬のももが車から飛び出してしまった。 飼い主のSさんは過去に脱走されてエライ目に遭ったと聞いていたが、私はいたって冷静だった。 駐車場の周囲を見渡し、人や車両がどの位離れているかを確認して自分に与えられた猶予時間を判断してから捕獲方法を決めた。
結局3番目の言葉で1分もしないうちに『ごめんなさい、ちょっとした出来心で…、ホントごめんね』とももは私の懐に滑り込むように入ってきた。
犬が逃げた時、追いかける人がいるがあれは最悪である。 まあ小型犬の中には我を忘れて駆けて行く犬もいるが、あの瞬間はもう度胸を据えるしかない。 ただひとつできる事があれば、逃げた瞬間ではなく逃げた後に自分が原因で他人に危害を加えたり交通事故に遭わせないようにする事であろう。
幸いにもというか、逃げたももは何かに驚いてパニックになったわけでも、ある国からから脱北したかったわけでもなく『ヒャー、逃げちゃった。どうする?』 というとても一般的な状況だった。
こちらがパニックになって追いかけながら呼んだりして捕まえようとするのが素人。
その状況に戸惑っているのは実は犬の方なのであって、追いかけたり取り乱すような声を出すのは却って犬の高ぶりを助長するだけのことである。 私の場合はそうではないけど、一般の方ならそこで走ってきた車に跳ねられても仕方ないという度胸を据えるべきである。
決して追っかけることなく5メートル以上の距離を置いて 「こら!もも!なにしとる!おいで!!」 と強めに言ってみる。 これで戻る犬は“逃げる”ような犬の中にはまずいないのは折込済み。 次に 「まて!!」と命令して近づく素振りを見せると大抵の場合相手は戸惑いながらも逃げる体制を整え、「その手には乗らないぞ」と距離を保つ。
だがそれまでの経緯の中で、『どこかで折り合いをつけなければ』という感情が犬には芽生えている。 そこで両者妥協の 「もも、いいからおいで!楽しかったか?さあ帰るぞ。」という接し方になる。
充分な関係ができていれば強めに言うだけで解決し、ある程度の訓練ができていれば『マテ』で解決し、そこそこできていれば妥協策でも効果はある。
それでも対応できないならあなたと愛犬は見せかけの同居人という関係でしょうな。
ももが逃げた時、Kはさっさと車に入っていった。 「だって私が顔を出したらももに遊び心が出ちゃうでしょ」 いろんな間抜けがあるがやはりKは私にとって最高の理解者である。
|
|
|